漢方薬「防風通聖散」が加齢による内臓脂肪蓄積を抑える効果を発見 令和7年度生薬学会論文賞を受賞 過剰な内臓脂肪や肝臓の異所性脂肪へのアプローチ

小林製薬株式会社(本社:大阪市、社長:豊田賀一)は、近畿大学薬学総合研究所(大阪府東大阪市、学長:松村到)教授 森川敏生の協力の下、肥満症などに用いられる漢方薬「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)※1」が、加齢により蓄積する過剰な内臓脂肪や肝臓の異所性脂肪※2 を抑えることを発見しました。本研究成果は、天然由来の医薬品に関する国際的な学術雑誌「Journal of Natural Medicines」において発表し、令和7年度生薬学会論文賞を受賞しました。この賞は令和6年度にJournal of Natural Medicines誌に掲載された論文の中でも学術上特に優れた内容を有すると認められた論文に贈られるものです。
【研究背景】
年齢とともに、脂肪を燃やす力が落ちてくることなどが原因で、お腹の脂肪は落ちにくくなります。特に、内臓脂肪の過剰な蓄積は、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病の原因となります。これらの状態を放置すると、脂肪組織以外(肝臓など)にも脂肪がたまる「異所性脂肪」という状態を引き起こし、健康へのリスクを高めることが懸念されています。漢方薬の防風通聖散は、肥満症に効果があることが臨床的に確認されていますが、これまで加齢による内臓脂肪や異所性脂肪の蓄積に対する効果を検証した研究はほとんどありませんでした。本研究では、加齢による内臓脂肪や肝臓の異所性脂肪の蓄積に対する防風通聖散の作用に着目し、研究を進めました。
【研究内容】
1.防風通聖散が、加齢による内臓脂肪や肝臓の異所性脂肪の蓄積を抑制
加齢に伴う変化として、体重は増えやすく、内臓脂肪は蓄積しやすくなることが分かっています。これに加えて、加齢は肝臓における脂肪滴の蓄積や、肝機能の悪化を示す血検査値(AST、ALT)の上昇を引き起こし、肝臓の異所性脂肪の蓄積を加速させる一因であることが知られています。それに対し防風通聖散は、内臓脂肪や肝臓の脂肪滴を減少させ、悪化していた肝機能マーカー(AST、ALT)も改善させることが分かりました。これにより、防風通聖散が加齢による内臓脂肪や肝臓の異所性脂肪にもアプローチできる可能性が示されました。
2.防風通聖散が衰えた脂肪燃焼力を回復
褐色脂肪細胞※3 は脂肪の燃焼に関わる細胞であり、この細胞において脂肪燃焼の鍵となるタンパク質UCP1※3 が、加齢によって低下することが知られています。今回、愛知学院大学(井上誠教授)の協力の下、防風通聖散が低下したUCP1を回復することを発見しました。このことから、防風通聖散は加齢とともに低下する脂肪の燃焼力を高めることで、内臓脂肪や肝臓の異所性脂肪の蓄積を抑制することが示されました。

【まとめ】
本研究は、漢方薬「防風通聖散」が、加齢に伴う肥満に対し、脂肪の燃焼力を高めることで、内臓脂肪や肝臓の異所性脂肪を減少させる効果がある可能性を提供しました。
このように、加齢とともに蓄積しやすくなる脂肪に対処できることで、肥満症の改善や進展予防に役立つことが期待されます。今後もこうした知見を踏まえ、肥満症改善に貢献する製品開発に繋げてまいります。
※1:防風通聖散とは
18種類の生薬から構成される漢方薬であり、肥満症などに用いられます。
※2:異所性脂肪とは
本来蓄えられるべき脂肪組織以外の場所(肝臓、心臓など)に蓄積する脂肪のことで、健康リスクを高める一因と考えられています。
※3:褐色脂肪細胞とUCP1とは
褐色脂肪細胞は脂肪を燃焼させて熱を産生する細胞です。UCP1は、その熱産生に関わるタンパク質で、この発現量が多いと脂肪燃焼が増えると考えられています。
【受賞論文】
小林製薬株式会社 研究開発本部 基盤研究部 部長 赤木淳二
近畿大学 薬学総合研究所 教授 森川敏生 他
タイトル:
「Ameliorative effect of bofutsushosan(Fangfengtongshengsan)extract on the progression of aging-induced obesity」(J. Nat. Med., 78, 576-589 (2024).)
DOI :10.1007/s11418-024-01803-4
URL :https://doi.org/10.1007/s11418-024-01803-4
【関連リンク】
薬学総合研究所 教授 森川敏生(モリカワトシオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/823-morikawa-toshio.html


