BSI(英国規格協会)、「企業のAIガバナンス」に関する 調査レポートを公開
加速するAI投資、見過ごされるガバナンスの盲点
本プレスリリースは2025年10月28日(英国時間)に英国で配信されたプレスリリースの抄訳版です。
2025年10月28日:AIツールや対応製品への投資が進んでいる一方、それを管理・保護する仕組みが整っていない企業が増加し、AIに関するガバナンスが不十分であるという現実が顕在化しつつあります。業務改善と規格開発を推進する英国規格協会(British Standards Institution、以下「BSI」)の調査によると、経営陣が生産性向上とコスト削減を目的にAIに巨額な投資を行うものの、多くの企業が無自覚のまま重大なガバナンス上の機能不全に陥るリスクを高めていることが明らかになりました。

本調査は、AIを用いた100件以上の多国籍企業の年次報告書の分析と、世界7か国(オーストラリア、中国、フランス、ドイツ、日本、英国、米国)のシニアビジネスリーダー850名超を対象とした2回のグローバル調査(6か月間隔で実施)を組み合わせたもので、AIがコミュニケーションにおいてどのように位置付けられているかの包括的な見解ならびに、その導入に関する経営幹部の洞察を提供するものです。
ガバナンスの未整備が顕在化
世界のビジネスリーダーの62%が、今後1年間でAIへの投資を拡大する予定であると回答しました。その理由として、過半数が生産性と効率性の向上(61%)を挙げ、半数(49%)はコスト削減を重視しています。さらに現時点で、過半数(59%)がAIを自社の成長に不可欠と認識しており、経営陣がAIを将来の事業成功に不可欠な要素と見なしていることが浮き彫りとなりました。一方で、日本の数値はいずれも低く、今後1年間でAIへの投資を拡大する予定であると回答しているのは、約半数となる36%にすぎませんでした。生産性と効率性の向上を重視しているのは50%、コスト削減は41%、そしてAIが自社の成長に不可欠と認識しているのは39%でした。
また、安全対策が著しく欠如していることも浮き彫りとなっています。自社にAIガバナンスプログラムがあると回答したのは4分の1未満にとどまりましたが、大企業ではわずかに上昇し、3分の1強となりました(※1)。
日本ではこの割合がさらに低く、全体ではわずか10%、大企業では39%となっています。この傾向は調査全体を通じて繰り返し確認されています。AI利用が正式なプロセスで管理されていると回答したのは2025年2月の15%から増加し、約半数に上ります。一方、自社のガイドラインを利用していると報告したのは19%から増加しましたが、3分の1にとどまります。従業員のAIツール使用を監視していると回答したのはわずか4分の1で、AIがもたらすリスクと必要な緩和策を評価するプロセスを持っているのは30%のみでした。また、未承認AIの使用を従業員に制限している企業は5社中1社に過ぎません。対照的に日本では、AI利用が正式なプロセスで管理されていると答えたのはわずか20%にとどまり、自社ガイドラインの活用も25%でした。従業員のAIツール使用を監視している企業はわずか9%、リスク評価プロセスを持つのは12%のみです。さらに、未承認AIの使用を制限している企業も12%にすぎず、世界平均とのギャップが浮き彫りになっています。
AI支援分析はこの新たなガバナンス格差を裏付けると同時に、地域による格差があることも明らかにしました。キーワード分析によると、ガバナンスと規制は英国企業による報告書においてより中心的なテーマであり、インドの企業報告書より80%多く、中国の企業報告書より73%多く言及されていました。
AIのガバナンスと管理において重要な要素のひとつは、データがどのように収集・保存され、そして大規模言語モデル(LLM)の学習に利用されているかという点にあります。しかし、自社のAIツールを訓練または運用する際にどのようなデータソースを使用しているかを把握している経営者はわずか28%にとどまり(日本:18%)、2月時点の35%から減少しています。 また、機密データをAIの訓練に使用する際の明確なプロセスを自社で整備していると回答したのは、わずか40%(日本:12%)にとどまりました。
※1:大企業とは従業員250人以上の組織を指します。
■BSIの最高責任者(CEO)であるSusan Taylor Martinは、次のように述べています。
「ビジネス界はいま、AIのもつ大きな可能性を着実に実感しはじめています。しかしその一方で、ガバナンスの整備は依然として追いついておらず、対処が必要です。戦略的な監視や明確なルールが整っていなければ、AIは進歩を支える力となる可能性があると同時に、成長を妨げ、生産性を損ない、コストを増加させる逆風にもなりかねません。また、組織や市場ごとにアプローチが分かれることで、意図せぬ形で有害な使用が生じるおそれもあります。過信や断片的で一貫性のないガバナンスは、多くの組織が本来避けられたはずの失敗や評判の失墜を招きかねません。いまこそ企業は、受け身のコンプライアンスから脱し、能動的かつ包括的な AI ガバナンスの確立へと舵を切るときです」
リスクとセキュリティ上の懸念の解決は依然として進まない状況
ビジネスリーダーの約3分の1が、AIが自社のビジネスにとってリスクや弱点の原因となっていると感じており、新しいAIツールを導入する際に従業員が従う標準化されたプロセスを整備しているのはわずか3分の1でした。こうしたリスクを管理する能力は低下傾向にあり、組織がAI関連のリスクをより広範なコンプライアンス義務に含めていると回答したのは49%のみで、過去6か月間の60%から減少しています。また、AIが新たな脆弱性を生み出す可能性を評価するための正式なリスク評価プロセスを有していると報告した企業は、わずか30%でした。一方、日本ではAIを自社のリスクや弱点の要因ととらえているビジネスリーダーは13%にすぎず、新しいAIツールの標準化プロセスを整備している企業も同じく13%にとどまります。AI関連のリスクを広範なコンプライアンス義務に含めていると回答した企業は17%、正式なリスク評価プロセスを有している企業は12%でした。これらの結果から、日本企業はAIリスク管理体制の整備を急ぐ必要があることが明らかになりました。
金融サービス企業は年次報告書において、AI関連のリスクとセキュリティを最も重視しており、その重点度は次点の建設・環境業界より25%高くなっています。特にAI導入に伴うサイバーセキュリティリスクを重視しており、これは従来の消費者保護責任やセキュリティ侵害による評判リスクを反映していると考えられます。一方、テクノロジー企業と運輸企業はこの分野への重点度が著しく低く、ガバナンス手法における業界間の差異が浮き彫りとなっています。
不具合とAIの有用性評価への注目不足
AIが誤作動した場合の対応策にも焦点が当てられていません。問題発生箇所を記録したり、AIツールの不具合や不正確さを報告して対処できるようにするプロセスを自社が持っていると回答したのはわずか3分の1(日本:13%)にとどまり、AIインシデントを管理し、迅速な対応を確保するプロセスを有すると回答した組織は3分の1弱(日本:12%)でした。さらに、約5分の1(日本:12%)は、生成AIツールが一定期間利用不能になった場合、事業継続が不可能だとしています。
ビジネスリーダーの5分の2以上(日本:13%)が、AI投資により他のプロジェクトに充てられたはずのリソースが奪われたと回答しました。しかし、組織内の各部門でAIサービスの重複を回避するプロセスを整備しているのはわずか29%(日本:13%)にとどまりました。
人による監督や教育は、他の対策と比べて優先度が最も低い
年次報告書において、「自動化」という用語の出現頻度は、「スキルアップ」や「リスキリング」の約7倍に達しています。全体として、労働力関連のトピックが相対的に低頻度であることは、企業が技術の進歩に並行して人的資本への投資の必要性を過小評価している可能性を示唆しています。
ビジネスリーダーの間には一定の油断が見られ、従業員がAIによる変化に適応し、その真価を引き出すために必要な新たなスキルを十分に備えていると考えてしまう傾向があります。世界のビジネスリーダーの半数以上(日本:31%)が、自社の新入社員がAIを活用する上で必要なスキルを持っていると確信しており、57%(日本:17%)は、組織全体が日常業務でAIツールを効果的に活用するための必須スキルを持っていると回答しています。また、55%(日本:21%)は、自社が従業員に対し、生成AIを批判的・戦略的・分析的に活用する能力を育成できると確信していると回答しました。
3分の1(日本:16%)はAI研修を支援する専用の学習・開発プログラムを持っています。より高い割合の64%(日本:26%)は、AIを安全かつ確実に使用・管理するための研修を受けたと回答しており、これはAIへの懸念が、積極的な能力構築ではなく事後対応的な研修を促している可能性を示唆しています。本レポートは、生成AIの導入が職務と業務形態に与える影響に関するBSIの先行調査に続くものです。
レポートの全文(英語)は、以下のページよりダウンロードいただけます。
https://www.bsigroup.com/en-GB/insights-and-media/insights/whitepapers/trust-in-ai-grounded-in-governance/
ご参考資料:2025年10月発表の先行調査/ https://www.bsigroup.com/siteassets/pdf/en/insights-and-media/campaigns/trust-in-ai.pdf
BSIは2023年末に初のAIマネジメントシステム規格を発行し、これ以降KPMGオーストラリアを含む企業に対して同規格に基づく認証を実施しています。
ISO/IEC 42001:2023/ https://www.bsigroup.com/ja-jp/products-and-services/standards/iso-42001-ai-management-system/
また、BSIグループジャパンでは、AIガバナンスをはじめ全てのオンデマンド研修が15%OFFとなる、秋のスキルアップキャンペーンを実施しています。詳細はこちらをご確認ください。
https://page.bsigroup.com/ondemand-training-campaign-0925

AI中心性モデルは、123の年次報告書において、各テーマがAIとどの程度関連しているかを示しています。
調査について
本調査は、2つの部分に分けて実施されました:
- FocalDataによる調査:
○2025年8月14日~25日 - 世界7か国(オーストラリア、中国、フランス、ドイツ、日本、英国、米国)のビジネスリーダー850名超を対象としています。
○2025年2月13日~24日 - 世界8か国(英国、米国、フランス、ドイツ、中国、日本、インド、オーストラリア)の8,911名の社員(うち844名がAI上級意思決定者、1,054名が経営幹部)を対象としています。
- 本調査ではネットワークベースの手法を用い、6つのセクター(テクノロジー、製薬、消費財(FMCG)、金融サービス、運輸、建設環境)および7つの市場(英国、米国、日本、中国、欧州、オセアニア、インド)にまたがる123の多国籍企業が、年次報告書においてどのようにAIについて言及しているかを分析しました。収集・処理した報告書からAI関連の文を抽出し、主要なフレーズ(少なくとも5回以上共起するもの)を特定した後、AIの言及と少なくとも2回以上共起した10,055の固有キーワードおよびフレーズを用いてネットワークモデルを構築しました。さらに、大規模言語モデルを用いて、これら2,421件を6つの事前定義テーマ(イノベーションと競争優位性、製品と技術、ガバナンスと規制、リスクとセキュリティ、社会的責任と倫理、労働力と人的資本)に分類し、正確性を確認するための手動レビューも実施しました。分析の中心は、ネットワーク内でのキーワードとテーマの重要性を示す中心性(セントラリティ)で、他の要素との共起の頻度と強さを測定することで、企業におけるAI言説の相対的な影響力と相互関連性を明らかにしています。
BSI(英国規格協会)とBSIグループジャパンについて
BSI(British Standards Institution:英国規格協会)は、ビジネス改善と標準化を推進する機関です。設立以来1世紀以上にわたって組織や社会にポジティブな影響をもたらし、信頼を築き、人々の暮らしを向上させてきました。現在190を超える国と地域、そして77,500社以上のお客様と取引をしながら、専門家、業界団体、消費者団体、組織、政府機関を含む15,000の強力なグローバルコミュニティと連携しています。BSIは、自動車、航空宇宙、建築環境、食品、小売、医療などの主要産業分野にわたる豊富な専門知識を活用し、お客様のパーパス達成を支援することを自社のパーパスと定めています。気候変動からデジタルトランスフォーメーションにおける信頼の構築まで、あらゆる重要社会課題に取り組むために、BSIはさまざまな組織と手を取り合うことによって、より良い社会と持続可能な世界の実現を加速し、組織が自信を持って成長できるよう支援しています。
BSIグループジャパンは、1999年に設立されたBSIの日本法人です。マネジメントシステム、情報セキュリティサービス、医療機器の認証サービス、製品試験・製品認証サービスおよび研修サービスの提供を主業務とし、また規格開発のサポートを含め規格に関する幅広いサービスを提供しています。